ローマにもナンプラーは存在していた!?
タイ料理などのエスニック料理には欠かせない「ナンプラー」。魚醤とよばれ、魚を塩と共に漬け込み発酵させた液体調味料です。ナンプラーはタイが原産ですが 、同じく有名な魚醤としてはベトナムの「ニョクマム」が挙げられます。ナンプラーに比べ、ニョクマムの方が発酵が浅く、より魚の香りが強いとされています。
他にも、東南アジア各国では様々な種類の魚醤があります。キムチ作りに欠かせない韓国の「エクチョ」、広東・福建料理に使われる中国の「ユーロウ」、塩気も臭いも強いフィリピンの「パティス」、コイ科の魚の塩辛の製造過程でできるカンボジアの「トゥック・トレイ」、ミャンマーの代表的な麺料理、モヒンガーには欠かせない「ンガンピャーイェー」など、東南アジア各国で作られています。
日本にも「しょっつる」「いしる」といった魚醤があります。「しょっつる」は秋田県の冬の味覚であるハタハタと塩を漬け込み、1~2年熟成させたものを濾して作ります。古来の製法でつくる「しょっつる」は、魚臭くなく上品でまろやかな味が、料理に深みを加えてくれます。
「いしる」は能登の魚醤ですが、実は原料・産地によって「いしる」と「いしり」の2種類があります。「いしる」はいわしやサバなどが主な原料となり、「いしり」は真イカの内臓を使います。今でも能登では郷土料理だけでなく、刺身や煮物の隠し味として多く使われています。
日本や中国、ベトナムでは古代の文献にも使われた記録が残る魚醤ですが、実は古代ローマでも「ガルム」と呼ばれるカタクチイワシや鯛を原料とした魚醤が使われていました。古代ローマの美食家アピーキウスが記した料理書によると、庶民から富裕層までローマ市民の食卓には欠かせない調味料でしたが、ローマ帝国の滅亡とともにその製造は途絶えています。
現在のヨーロッパでは、イタリアで13世紀頃から「ガルム」の製法を再現した「コラトゥーラ・ディ・アリーチ」が作られるようになりました。“アンチョビを濾した液”という意味を持つ「コラトゥーラ」。魚臭さはほとんど無く、南イタリアではペペロンチーノをはじめ、料理の隠し味として使用されています。