その1:カタチの理由
「祝い箸」は両端が細く、中央部分が太い丸箸で、別名を「両口箸」とも言われています。片方の口は私たち人間、もう一方の端は神様が使うために細くなっているのです。これは“神人共食”という、神道の考え方に基づいた習わしです。祝いの場で神様をお迎えし、ともに食事をすることによって繋がりあい、神様のご加護をいただけるように、との願いが込められています。神人共食の考えは、お供えしたものを皆でわけて食べる「直会(なおらい)」の風習でもみられます。これは神様の食べたものを自分も食べることによって、同じようにご利益を願う行為です。
また、祝箸の真ん中は太くなっているため、別名「はらみ箸」とも呼ばれています。これは孕む(はらむ)ことを意味し、箸に五穀豊穣をつかさどる歳神様が宿るので、孕む=膨れると考えられているためです。他にも「太箸(たいばし)」、「俵箸」ともよばれ、同様の祈りが込められています。
長さは八寸(約24cm)と決められています。これは八という漢字が、下に向けて次第に広がる、「末広がり」の形をしていることから、縁起の良い数字とされているためです。
その2:素材の理由
祝箸の材質は柳の木と決まっており、別名「柳箸」とも言われています。柳は古くから、邪気を払う神聖な木とされ、様々な行事・儀礼に用いられてきました。太田道灌は江戸城を築城する際に、日光東照宮の鬼門よけの意味で神田上水沿いに柳の木を多く植えました。このため東京の街には現在も、皇居のお堀端をはじめ街路樹として柳が多く残っています。
また、柳は春のまだ浅い時期に、他の木に先がけて一番に新芽を出すことから、生命力が強く縁起の良い木であるとも言われています。そして、しなやかで折れにくい特性も重要です。目出度い祝いの場において、「折れる」など縁起の悪いことが起きるのを忌み嫌う意味もあるのです。
その3:正しい使い方!
お正月の祝い箸には、大晦日から三が日まで続くルールがあることをご存知でしょうか。まずは大晦日の日。家長にあたる人が、祝い箸の箸紙に家族全員の名前を書き、箸を入れた後、神棚にお供えします。これは、今年一年のご加護に感謝し、来年も、家族を守って下さるよう願いを込めて行う習わしです。ちなみに、来客用の箸には「上」と記しておきます。
元旦を迎えお節を食べる際には、その1でご紹介したとおり、祝い箸はどちらか一方しか使ってはいけません。片方は神様のためにキレイに保っておく必要がありますので、取り分けるときは、別の箸を使いましょう。これはお食い初めの場合も同じです。また、使った箸は自分で洗い清めてからまた箸袋に戻し、三が日(1/3まで)のうちは同じ箸を使います。松の内(1/7)まで使う地域もあります。
松の内もすぎ、役目を終えた祝い箸は、どうすればいいでしょうか?皆さんのお住まいの近くに、「どんど焼き」や「お焚き上げ」などの行事を行う神社はありますか?小正月(1/15)に神社などで行われるこれらの行事に持参して、松飾りやしめ縄などと一緒に燃やしてもらいます。どんど焼きの火にあたれば、1年を無病息災で過ごせると伝えられる、民間伝承です。これらの行事が行われていない場合は、自分の家でお清めして処分しましょう。広げた紙の上に祝い箸を置き、お塩を左、右、左と三回かけます。そのまま紙でくるめば、ごみとして安心して処分できます。
さて、ここまで祝い箸の風習を解説してきましたが、あなたは面倒だな、と感じたでしょうか?それとも、今年からやってみよう!と思われたでしょうか。いずれにしても祝い箸は「食べる」という日常に欠かせない行為を通じて、いつもお守りいただいている神様に感謝の心を捧げて、改めて一年の無事を願う習わしです。日本人が永年培ってきた風習の一つとして、記憶に留めておくのも良いのではないでしょうか。