2017年9月4日改定:2017年8月に在留期間が2年から5年に延長になりました。
日本で和食の修業を続けたい外国人留学生は、調理師として雇用できる?
?和食を学ぶ留学生は、専門卒後も修業を続けられる!
2014年、政府は「日本料理海外普及人材育成事業」をスタート。この事業はその名の通り、日本で日本料理を学んだ留学生が、本国に戻り日本食文化の価値を正しく伝えてもらうことを目的としています。調理師専門学校の留学生について、出入国管理行政上の特例措置を講じるもので、これにより調理師専門学校に通う外国人留学生は特例で5年間の在留期間延長が認められることになり、卒業後すぐに「日本料理店で」修業することが可能になっています。
?法務省が行う出入国管理行政上の特例措置
●「留学」の在留資格で在留し、我が国の調理師養成施設において調理師免許を取得するなど、今後策定される実施要領に規定する要件を満たした外国人調理師について、在留資格「特定活動」をもって指定された日本料理専門店等において、雇用契約に基づき日本料理の調理に係る専門的な知識及び技能を修得する活動を特例的に認めることとする。
●当該活動に係る在留期間は、通算して「5年」とする?
?卒業後は帰国するしかなかった、留学生。
これまで留学生は、調理師学校を卒業後にすぐに帰国しなくてはならず、留学生自身はもとより、アルバイトとして受け入れていた店や調理師学校から「現場で経験を積むことができない」との声が上がっていました。
現在も、日本国内で外国人を調理師として雇用する場合「技能」の在留資格が必要で、この資格を得るためには10年の実務経験が必要です(専門学校の在籍期間2年を含めることが出来るので、卒業後最短8年の実務経験)。このため、2014年までは調理師専門学校の新卒生を新入社員として雇用することは事実上、不可能だったのです。
?この制度のメリットとは?
この事業は農林水産省が中心となって、ビザの発行を行う「法務省」・外国人の就労を管轄する「厚生労働省」と事務的な調整を行いながら推進しています。農林水産省(食料産業局 食文化・市場開拓課 担当:松尾さん)によると、例年、約20名前後の留学生がこの制度を利用して和食の修業を継続しているそうです。受入先の料理店や協力する専門学校名は公表されていませんが、在学中にアルバイトとして雇用されていた留学生がそのまま正社員として雇用されたり、海外ホテルチェーンが日本研修を兼ねて雇用するケースもあるとのこと。専門学校としても、留学生に対し卒業後の進路を実績としてアピールすることができます。
2017年8月に、在留期間が2年から5年に延長したことで特定活動ビザの活用する企業がますます増えてくることが想定できます。「正しい和食を世界に広める」という長期的な目的はもちろん、留学生・日本料理店・専門学校、いずれの立場にとっても、短期的なメリットもある事業といえますね。
この事業がスタートした理由とは
世界で注目される「和食」。その現状とは?
2013年、「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されたのは記憶に新しいと思います。それ以降、世界的に和食に関する知名度があがり、2013年には5万5000店だった海外の日本料理店は2015年7月時点で8万9000店にまで急増しています。
けれども現況では「日本食文化」が正しく世界に知られているとは言えない状況にあります。例えばフランスには2014年の時点で、1200軒の「日本料理店」が存在しますが、そのほとんどは日本食とは名ばかりの店であり、食材の選択や調理が誤った手法で行われている現状があります。そして、フランス人にはこの味が「日本食」として認識されている可能性が大いにあり、その一因として、日本料理の料理人の人材不足が考えられます。
正しい日本食・食文化を世界へ!という取組み。
この状況を改善し、世界で求められている「和食」を、より広く・深く世界に普及させるためには、日系人・日系企業による海外出店のみでなく、技術や知識、衛生管理をしっかりと学んだ外国人料理人を増やすことも重要と考えられます。この理由からも、先ほどご紹介した「日本料理海外普及人材育成事業」が、農林水産省の主導により民間団体・企業とともに進められているのです。
留学生が専門学校を卒業後に、日本料理店で5年間勤務することにより、学校での経験だけでは得られない、確かな技術と生きた知識を得ることができます。実はこの制度では、国内での就労は5年間限定ですが、5年経過後に海外の支店等で継続的に雇用することが可能です。そして帰国後現地で、また別の外国の地で日本の味を伝えることにより、留学生は正しい和食文化を深く世界に伝える架け橋となってくれることでしょう。
受入れ対象となる「日本料理店」の定義は?
受け入れ料理店として「日本料理店なんて限られてるのでは?」とあきらめるのは待ってください!農林水産省が定めた「日本料理店」の定義は、実はずいぶん多岐にわたるのです。
- 料亭
- そば・うどん店
- すし店
- お好み焼・焼きそば・たこ焼き店
- 他に分類されないその他の飲食店(大福・今川焼・ところ天・汁粉・湯茶などをその場で提供する店など)
いかがですか?すし店・そば店は想定内でしたが、「たこ焼き」「今川焼」まで定義に入っているのは少し意外でした。このため、該当店舗はぐぐっと増えていますよね!
資格ってあるの?
留学生の在留期間を延長して、日本料理店で修業を続けることができる「日本料理海外普及人材育成事業」。この事業の目的はあくまで「和食文化を正しく世界に伝える」ことですので、「誰でも」利用できるわけではありません。たとえば日本の調理師専門学校に留学していても、フレンチを学ぶ学生は対象になりません。
「留学生」・「受け入れ先の日本料理店」双方に求められる要件を簡単にご紹介します。
①留学生
留学生に求められる要件は主に3つです。
- 素行が善良
- 日本料理習得の意志・意欲がある
- 18歳以上 等
※詳しくは留学生が在籍中の学校へお問い合わせください
②料理店
料理店が外国人調理師を受け入れるにあたっては、実習計画が必要となります(フォーマットあり)。内容としては7つの項目が挙げられ、その認定には要件が出されています。たとえば日本料理店での勤務内容が皿洗いやホールスタッフなど、技術を必要としない業務だけではNGになります。詳しくは農林水産省のHPでご確認ください。
実習計画の内容
- 日本料理習得のための計画および施設
- 在留中の住居の確保
- 日本料理の指導員および生活指導員の任命
- 報酬および社会保険への加入を担保する財産的基盤
- 留学生との面接および、相談や苦情への対応
- 帰国旅費の確保、その他帰国担保措置
- この活動の継続が不可能となった場合の措置
認定の要件
- 効果的な日本料理の技能の修得が可能と認められること
日本料理の修得期間を5年以内としていること
受入れ人数を1事業所当たり2人以内としていること
日本人と同等額以上の報酬を受けること
留学生を受け入れたい時はどうすればいいの?
受け入れている調理師学校を把握する
「日本料理海外普及人材育成事業」を利用した留学生の受け入れの実施は、「受入機関=留学生の受け入れ先の料理店」と「取組実施機関=調理師学校」が協力して行うことになります。一般の料理店が受け入れを希望し、どこの調理師学校が同事業を行っているのか知りたい場合は、調理師学校の団体である全国調理師養成施設協会に連絡をとり、留学生が在籍する調理師学校を紹介してもらうことになります。
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申請の流れ
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申請など一連の流れは、上記画像のような形ですすめていきます。ここでは注意点をいくつか挙げておきます。
- ①の申請を行う際に、1月に成績がそろった時点※で書類を揃える必要がある。ビザが切れる前に申請する必要があるため、卒業後に手続きを始めたのでは間に合いません。※カリキュラム終了時点で調理師免許授与とみなされるなど、学校により時期が異なる。
- ①の申請と同時のタイミングで、所轄の入国管理局にも「日本料理海外普及人材育成事業」のための在留期間延長申請を行っている旨を報告しておく必要がある。ビザの延長許可には通常1カ月程度かかるため、前もって行うようにする。
まとめ
いかがでしたか?全国調理師養成施設協会の資料によると平成28年度、全国の調理師養成施設で学ぶ留学生の数は339人でした。その内、この事業を活用して学ぶ外国人調理師が20名存在するという数字は、この事業が徐々に普及している証しではないでしょうか。
この制度を有効に生かすための実習計画と、農林水産省の認定などの条件をクリアできれば、留学生・料理店双方にとって有益な制度であり、日本のブランド力を底上げするための地道な方策でもあると思いました。