観測史上最も早い梅雨明けとなった2018年、真夏さながらにギラギラと照りつける太陽に疲労がたまり、鰻のかば焼きでも食べてスタミナをつけたいところです!「土用の丑の日」というと、夏にウナギを食べる日だけ、と思われている方も多いと思います。実はこの、年に数日あることをご存知でしたか?
「土用」って何?
そもそも「土用」とは雑節(季節の変化の目安とする日)のひとつで立春、立夏、立秋、立冬の前の18日間のことをいいます。その期間中の「丑の日」(丑の日…十二支を例えば、1日=子、2日=丑、3日=寅…と1日ごとに割り当てていったときの丑に当てはまる日のこと)を「土用の丑の日」と呼ぶのです。
その方法で数えると「丑の日」は12日毎に1度回ってきますよね。年によっては土用の期間に丑の日が2回、まわってくることもあります。
さてさて、気になる2018年「土用の丑の日」はコチラ!
1月21日、2月2日、4月27日、7月20日、8月1日、10月24日、11月5日
【2019年/土用の丑の日】
1月28日、4月22日、5月4日、7月27日、10月31日
ここまでで、土用が実は年に数回あることがお分かり頂けたかと思います。一般的には、夏の「土用の最初の丑の日」を「土用丑」とよび、「鰻を食べる日」として広く認知されていますよね。ちなみに夏に2番目の丑の日があっても、なかなか盛り上がらず、最初の丑の日ほどの売り上げは上がらないということです。
なぜ?近年続くウナギの「値上がり」
2017年に絶滅危惧種に指定された「ニホンウナギ」。2018年は、稚魚であるシラスウナギが25年前の約10分の1にまで減少、歴史的な不漁というニュースがありました。このため専門店が使う活鰻(カツマン:生きたウナギ)の卸値が、前年比なんと60%の高値を付けています。このため、うなぎ専門店では値上げせざるを得ず、その高値に客離れも心配されているほどです(ちなみに吉野家のうな重は2017年と同じ価格で展開しています)。
実は未だにウナギの生態には謎が多く、また非常にデリケートな魚であるため、ふ化から飼育まで人工で行う「完全養殖」は実現していません。このため、養殖に使用する稚魚は100%天然のシラスウナギが使われています。
ウナギの値段があがったのはシラスウナギの漁獲高が年々減り続けているためと考えられますが、その減少の原因はどこにあるのでしょう。環境省「生息地保全の考え方2017」によると次のような理由が挙げられています。
●1 過剰な漁獲 ●2 生育場の環境変化 ●3 海洋環境の変化
けれど外食チェーンやスーパーでは格安の鰻かば焼きが販売されていて、「本当に絶滅危惧種?」と疑問に思ってしまいますよね。
絶滅危惧種って食べていいの?
さて、国際自然保護連合(IUCN)が定めているこの「絶滅危惧種」。実は、法的な拘束力は特にありません。水産庁によると、現時点でウナギ生産量の減少の要因が特定されていないため「消費者が買い控える必要はない」という見解です。水産省としては禁漁にすれば養殖業者の多くは事業を続けられなくなる…という危惧も働いているようです。
また「市場に出回るウナギの半数近くに違法取引の可能性がある」という共同通信のニュースが6月に話題になりました。じつは、日本で消費されるウナギの99%は養殖によるもの。日本国内でのウナギ養殖は、国産の幼魚(シラスウナギ)だけでは需要を賄えないため、香港やフィリピンなどからの輸入に依存している現状があります。輸入自体は合法なのですが、じつは香港では幼魚の産地ではないため、実は台湾などで禁漁期に違法に水揚げされた幼魚を香港経由で輸入している、というのが実態です。絶滅しそうなのは日本のウナギだから、中国産など外国産なら大丈夫?と思われがちなのですが、ウナギは回遊魚であり、日本海近海の各国で水揚げされるシラスウナギは、実は全て同一の「ニホンウナギ」なのです。このため、ニホンウナギが絶滅すれば各国でも絶滅することになります。
自然保護の観点で考えると、個体数の減少の要因が特定できていなくても、漁獲量を減らすことは充分に意義があると考えられます。流通大手ではイギリスに本部を置く海洋管理協議会(MSC)の認証取得に向けウナギの保護活動に取り組む企業や、違法な鰻を扱わない取り組みを行う企業もあります。しかし、ウナギ自体の生態系の特定もなかばで、さらに利権もからみ、保全と持続的利用の対策はなかなか進んでいないのが現状のようです。
土用の日に食べる、鰻じゃない「う」のつくものとは?
夏にウナギを食べる習慣が出来たのは、江戸時代末、蘭学者の平賀源内が近所のうなぎ屋に「夏場にウナギが売れないので何とかしてほしい」と相談されて、意味で「本日土用丑の日」という看板を考案、大繁盛したのがきっかけだという俗説は有名ですよね。じつは天然ウナギの旬は冬、しかも食欲の落ちる夏場にこってりしたものを食べる習慣はなかったのでしょう。
もともと俗信で「丑の日」には「う」のつく物を食べると夏バテしないと言われており、源内はそこに目をつけて「ウナギ」を選んだのでしょうか。夏の土用(7月20日頃から8月6日頃)は、二十四節季でいうと大暑に重なる、非常に暑い時期。湿気も多く体調を崩しやすくなっているこの時期に食養生を行うのは理にかなっているともいえます。
しかし、庶民にとって鰻重が高嶺の花だったのは江戸時代も同じこと。人々は手が届きやすく滋養効果のある「う」のつく、こんな食べ物を食べていました。
●うどん
のどごしがよく、さっぱりと食べやすいため、食欲が落ちたときのつよい味方。冷たいうどんは現代でもかわらず夏の定番メニューですね。また、消化吸収もよいため胃腸が弱っているときにもちょうどよく、体調を崩しやすいこの季節にぴったりのメニューといえるでしょう。
●うめぼし
梅干の殺菌作用は古くから知られるところですが、梅干にはあの酸っぱさの正体、クエン酸が多く含まれており、疲労防止や回復に効果があります。また、ポリフェノールが活性酸素を取り除き、抗酸化作用をもつなど、からだの免疫力を高めてくれる効果も!
●うり
きゅうり、すいか、とうがん、かぼちゃなどの瓜科の野菜はカリウムを多く含み、体の熱を逃がしむくみを取る働きがあります。ゴーヤもおすすめです!
いずれも暑い日には自然と食べたくなるようなラインナップですよね。肉食の習慣のなかった江戸時代には「うし」は選択肢に無かったのでしょうが、われわれ現代人は牛のステーキを食べてスタミナをつける…というのもありかもしれませんね!
まとめ
「2017年に消費者に販売されず廃棄されたウナギのかば焼きが、少なくとも2.7トンにも上る」という衝撃的なニュースも耳に新しいところです。近年、国内でも有識者の間で、法的拘束力のある「ワシントン条約でウナギの漁獲規制を」という声も高まっています。これが実現されると輸出入が規制されるため、食卓からウナギが消えてしまうことも考えられます。
日本が生み育てた「うなぎ文化」を守るためにも、持続可能な形でウナギを楽しむ方法を探っていきたいものですね。