「働いてあげている」「働かせてあげている」はトラブルのもと!
現代の飲食業界において、健全な経営状態を保つためには「健全な労働環境の整備」が必要です。しかしながら中小企業、個人自営業が全体の9割以上を占める飲食業界は他のサービス業界同様、健全とは言い難い労働環境により雇用者と従業員間のトラブルが多い業界です。
料理業界はそもそも「職人の世界」である事からいわゆる「サラリーマン的」な勤務意識がなく、【働く=奉公=修業→独り立ち】という図式が成立してきた世界ですが、「外食産業」「フードビジネス業界」の名のもと、メジャー業界として確立するには「正しい労務知識」は無視できません。
このコーナーでは飲食業界の労働者・雇用者の両者の視点で正しい労務知識を紹介し、雇用者への啓発・提案、そして労働者への権利・責任などを実例をもとに理解していただき、両者にとってトラブルのない健全で分かち合える職場構築のサポートを目指しています。
【今回のご相談内容】
皆勤手当について
Q、私の給料は各手当を含めて35万円くらいなのですが、そのうち10万円が皆勤手当となっています。1分でも遅刻すれば一気に10万円も支給額が減ってしまいます。違法ではありませんか。【31才 男性】
A、法律では、賃金の支払方法や割増賃金の計算方法については詳細に規定されています。ところが、賃金の額や構成については、最低賃金が定められている以外は、なんの規制もありません。したがって、どんな手当をいくら支給するかは、会社と従業員の当事者間の取り決め次第ということになります。賃金規程において、「遅刻、早退、欠勤のなかった者に皆勤手当として10万円支給する」と定めることも違法ではありません。従業員の感覚からすると、遅刻をすると10万円“減らされる”という気分ですが、正確には“加算されない”ことになります。
ただし、手当にどんな意味を持たせるか、という観点からは疑問があります。そもそも皆勤手当は、「所定の始業・終業時刻の遵守と出勤率の向上を奨励する」ことを目的としているはずです。純粋な労働の対価である基本給部分とのバランスを考えて、本当にその「奨励」に10万円の価値があるか、ということを考えなければいけません。これは違法か適法かの問題ではなく、経営者の理念の問題と言えるでしょう。
なお、基本給等の支給額が35万円で、1回遅刻をしたら、”罰金“として10万円差っ引くのは、労働基準法91条の「減給の制裁」に違反となります。
(「減給の制裁」の制限は、1)1事案につき平均賃金の1日分の半額以内、2)1賃金支払期の賃金総額の10分の1以内、となっています。)