「働いてあげている」「働かせてあげている」はトラブルのもと!
現代の飲食業界において、健全な経営状態を保つためには「健全な労働環境の整備」が必要です。しかしながら中小企業、個人自営業が全体の9割以上を占める飲食業界は他のサービス業界同様、健全とは言い難い労働環境により雇用者と従業員間のトラブルが多い業界です。
料理業界はそもそも「職人の世界」である事からいわゆる「サラリーマン的」な勤務意識がなく、【働く=奉公=修業→独り立ち】という図式が成立してきた世界ですが、「外食産業」「フードビジネス業界」の名のもと、メジャー業界として確立するには「正しい労務知識」は無視できません。
このコーナーでは飲食業界の労働者・雇用者の両者の視点で正しい労務知識を紹介し、雇用者への啓発・提案、そして労働者への権利・責任などを実例をもとに理解していただき、両者にとってトラブルのない健全で分かち合える職場構築のサポートを目指しています。
【今回のご相談内容】
「大入手当」は割増賃金の計算の基礎から除外できるか」
Q、1日の売上げが一定額以上になると、その日勤務していたスタッフに一律に支給される「大入手当」という制度が、私の勤めているお店にはあります。給与計算の内訳を見てみると、この大入手当は残業代などの割増賃金の計算の基礎に含まれていないようです。これは正しいのですか。【25才 女性】
A、労働基準法では、法定時間外労働、法定休日労働、深夜労働をさせた場合、一定の割増率で計算をした割増賃金を支払うことが使用者に義務付けられています。
多くの企業では、賃金の一部として、様々な名称の手当を支給しています。 このうち、割増賃金の計算の基礎に入れなくてもいい手当は、限定的に列挙されています。
具体的には、(1)家族手当(2)通勤手当(3)別居手当(4)子女教育手当(5)住宅手当(6)臨時に支払われた賃金(7)1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金、?以上の7つだけが割増賃金の算定基礎から除くことができます(ただし、名称にかかわらず、実質的な支給条件によっては、除外することのできないこともあります)。
ところで、ご質問の「大入手当」はそもそも労働基準法上の「賃金」なのでしょうか。労働基準法11条では「賃金」の定義として「名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定められています。
「労働の対償」と言われると、具体的な労働に対応して支払われるものだけを考えがちです。しかし、実際にはもっと広い概念で解釈されており、就業規則などで明確に支給条件が定められているものは「労働の対償」であり、「賃金」に該当するとされています。通勤手当や結婚祝金も支給条件が明確であれば「賃金」となります。ご質問のような「大入手当」も支給条件が明確なので「賃金」ということになります。
それでは、「大入手当」は割増賃金の算定基礎から除外できる7つの賃金のどれかに該当するでしょうか。もし、該当するとしたら、(6)の「臨時に支払われた賃金」あたりに可能性がありそうです。ここで、「臨時に支払われた賃金」とは、行政通達によると、 臨時的、突発的に支払われたもの、又は支給条件は定められているが、支給事由の発生が不確定で、かつ非常にまれであるもの、とされています。ご質問のような支給条件の大入手当は、この条件を満たせません。
したがって、 大入手当は割増賃金の基礎から除外できる手当のいずれにも該当しないことになります。