コロナ禍で400名のキャンセル!開き直って始めた料理動画が大ヒット!南青山「アクアパッツア」日高良実シェフ インタビュー!
『なるようになる。と開き直ったら湧いてきた力』
――2020年に入り新型コロナウイルスの影響が大きくなり始めたのはいつ頃からでしたか?
3月くらいから、予約のキャンセルが相次ぐようになりました。3月は送別会などの貸し切り予約が多くて、一番の稼ぎ時ですよ。それなのに雲行きがどんどん怪しくなってきて、ランチもディナーも全部で400名くらいのキャンセルがありました。
――その後、自粛休業の決断をされるのですよね。
緊急事態宣言が出されると聞いて、4月1日のディナーから休業を決めました。昼間は営業していたのですが、その日の夜の2組がキャンセルになり、これはもう閉めたほうがいいだろうと思ったからです。横須賀の「アクアマーレ」はすでに休業していて、常に強い危機感を持っていました。公共施設内にあるレストランなので感染防止という市の方針により、美術館自体が休館になったのです。
いよいよ、東京もそういう事態になってきたなと感じました。もともとここに移転してきたのも広尾で火災を起こしてしまい、原状回復のための費用などで資金的に厳しい状況が続いてきた上に、今度はこのコロナです。雇用調整助成金などの手当てが出るのは知っていましたが、店を閉めるだけではなく、会社をたたまなければならないのではとすごく不安になりました。
ただ、個人的には広尾の2店舗を閉めるときの方がもっと苦しかったですね。店を続けるための物件を探すにしてもオリンピック前でなかなか見つからないし、資金面でも借り入れて何とかやりくりしていましたが、その先どうなるかわからない。そんな大変な時期を乗り越えてきたので、開き直れたような気がします。コロナで世界中がみんなこうだから、もういいや、“ケ・セラ・セラ”なるようになるさという感じでした。でも、人間は開き直ると力がわいてくるもの。溺れかけの状態で必死にもがいて、すがった藁が「YouTube」でした。
―― YouTubeを始めたきっかけを教えてください。
最初はYouTubeをバカにしていて、YouTuberなんてみんなチャラいやつだと思っていましたよ(笑)。みなさんにもそんなイメージがあるでしょう? なので、緊急事態宣言の前の2月くらいにChef Ropia(※1)さんから「YouTubeに出てくれませんか」と依頼があったときも、そういう人だろうなと思い込んでいました。ところが、やってみるとすぐに反響があり、評判もすごく良くて、『ボンゴレビアンコ』を作る動画なんて急上昇ランクに浮上したくらいです。あとは『アクアパッツァ』を作る動画でチダイを使っているのに、どうせみんなわからないだろうとマダイと言っていたところ、「チダイ?」というコメントがいっぱい並んで、「えーっ!」となってしまいました(笑)。
料理を本当に好きな人が観てくれているのが伝わってきました。さらに、動画ではエクストラバージンオイルのラベルを隠していたのに、「あのオイルは?」と見破られてしまったのです。YouTubeに対するイメージが大きく変わりました。そういうこともあって、休業期間に即できることといえばYouTubeだと考えたのです。藁をもつかむという想いでつかんだ、この藁が意外に太い藁でしたね。
※1. Chef Ropia:長野県の「リストランテ・フローリア」のオーナーシェフのYouTubeチャンネル。レシピ動画やをはじめ、「料理人の1日シリーズ」や厨房での仕込み風景を映した動画など、普段なかなか見ることのできないプロの仕事が見られるチャンネルとして人気を集めている。
?
――それで、ACQUAPAZZAチャンネルを新たに開設することになったのですね。
これは効果があるなと感じたのですが、自分では撮ったり、編集したりもできないからなと迷っていると、いろいろな人から「なんでYouTubeをやらないの?」と言われるようになってきました。そこで、誰かにお願いすればいいのだと初めて気づきました。これだけ集客に結びついているのですから、撮影や編集は外注して広告宣伝費にすればいいでしょう。その時点で、現在の形のようなイメージも大体できていました。最初は1人で続けられるのかと不安もありましたが、少しずつコツをつかんで、今ではどういうものが求められるのかがわかってきました。
また、その後、サブチャンネルを開いたのはスタッフのモチベーションを上げるためでもあります。「アクアマーレ」は夏の間は忙しくても、冬は閑散期。すると、急に辞めたいという人が現れるんですよ。横須賀のメンバーに出てもらって生産者巡りをしたり、シニアソムリエにワインの話をしてもらったり、いろいろなスタイルでお店の魅力をアピールできます。テレビで30分番組に出るとなるとすごいことですよね。それが自前でできて、しかも観ている人はみんな関心のある人ですから。私はYouTuberになるつもりはないですし、たくさんの方にお店に来ていただくのが一番の目的。スタッフの顔が見えるのは、お客様の安心にもつながりますよね。自粛期間中は動画を観て過ごす人も多かったようですから、そういう意味でもピタッとはまったのかもしれません。
――集客につながっているという手応えはどのあたりに感じられますか?
「行ってみたい」というコメントをたくさんいただいていますし、チャンネルを観ている人は男性が多くて、そのうち7割は25才から45才。実際にお店に来られる方も夫婦やカップルがほとんどですが、その年齢層に当てはまります。お客様に「うちの旦那は朝から晩まで観ています」とか、「来る前に観て予習してきました」と直接言われることもあります。その方たちのほとんどが記念日のご利用です。普段はあまりレストランに行かないけれど、食べることが好き、美味しいものが好きなので、誕生日や結婚記念日に行こうとなる。レストランは晴れの舞台なのです。
東日本大震災のときもそうでした。お祝い事などの予定をずらしていた人たちから、少しずつ戻ってきてくれました。今回も、週末は記念日のお客様が大半を占めています。中には、旦那さんの誕生日に奥さんのサプライズで来られる方もいらっしゃいます。「レストランを予約したから行こう」と、駅を降りれば外苑前。いよいよ店に入り、私があいさつに行くと、30代40代の男子の目がウルウルしている(笑)。うれしいですよね。YouTubeに出ているスタッフがあっちにもこっちにもいるというだけで、初めて来たような店じゃない気分になれるようです。YouTubeを使えば、そんな演出もできます。今は、この藁を何としてもつかみ続けなければと思っています。
――今後の展望について教えてください。
飲食に関わって40数年、今ようやく、みなさんが参考にできるような形ができあがってきた気がしています。ともかく、まずは生き残ることを念頭に置きながら、恩返しというか、飲食業界にとってもスタッフみんなにとっても、何か役に立てることを続けていきたいと思います。
――最後に、飲食業界を志す人たちに向けてメッセージをお願いします。
すべての常識が今、変わりつつあります。新しい常識を求めて、誰もが模索しています。今、私たちがやるべきことは世の中をよく見ることです。自分の足もとだけを見つめていると、そのうち行き詰まってしまうでしょう。良いことも悪いことも含めて、常に世の中の動きを見ていくことが大切。そして、これは良いなと思ったなら、思い切ってやってみることです。この先、どんな時代になっても飲食業は廃れないと思います。ただ、その時代、時代の流れに合ったスタイルというものはあります。若い人たちにはいずれ自分が経営者になったときに備えるためにも、もっと学んでもらいたいですね。たとえば、ワタミの焼肉への業態転換だったり、恵比寿にあるイタリアンではカウンターで野菜を売ったりもしています。本当に困ったときにこそ、良いアイデアは生まれてくるもの。いつの時代も調理の技術だけではなく、そういう切り替えのできる人だけが生き残っていけるのです。
日高 良実シェフのYouTubeチャンネルはコチラ!
日高 良実シェフのお店
リストランテ アクアパッツァ
住 所:東京都港区南青山2-27-18 AOYAMA M’s TOWER パサージュ青山2F
電 話:03-6434-7506
時 間:平 日/11:30?14:00(LO) 15:00(CL)
17:00?20:30(LO) 23:00(CL)
土日祝/11:30?20:00(LO) 22:00(CL)
ランチは15:00(LO)
定休日:無休
交 通:銀座線外苑前駅徒歩2分
銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅徒歩8分
現在募集中のイタリアンの求人はコチラ!