コック帽を発明したのは誰?
料理人の帽子には深いものや浅いものがありますが、腕前がいい(料理長に近い)ほど、かぶる帽子が深くなることをご存じですか?シェフのイメージには欠かせないあの独特の長い帽子。そのルーツについては諸説ありますが、一説には「フランス史上最も偉大である」と言われる大料理人、18世紀末に活躍したアントン・カーレムが最初だと言われています。
カーレムはフランス料理の基本ソースを4つに分類するなど、中世以来のフランス料理を体系化し、近代フランス料理の礎を築いた人物です。現在使用される鍋や料理器具も彼が考案したものが基本となっており、料理人のかぶる帽子もその一部であると言われています。
彼は「料理人の王にして王の料理人」と言われ、フランスの外交を料理で支え、豪華絢爛で豊かな味わいは各国の要人を魅了しました。その結果、当時は知名度の高くなかったフランス料理の素晴らしさが世界に広く知られるようになったのです。
低身長コンプレックスに秘密があった
さてもう一説は、少し時代を経て19世紀末に活躍した伝説的なシェフがルーツだというものです。背の低さをカバーし、厨房で目立ちやすくするため、深い帽子をかぶり始めたのだとか。その名はオーギュスト・エスコフィエ。フランス・パリの一流ホテル「リッツ」の総料理長で、「近代フランス料理の父」と呼ばれ、現在に至るまでその功績が称えられる偉大なシェフです。
エスコフィエは身長が157cmしかなかったんです。
それまで、料理人は低い帽子をかぶって調理していましたが、エスコフィエは自分を権威づけるために白くて高いコック帽を初めてかぶったのです。
それ以来、料理長は高い帽子をかぶるようになり、帽子の高さが地位の高さを表すようになったという訳です。出典:てつ校長のひとり言(福岡市にある中村調理製菓専門学校・中村国際ホテル専門学校「てつ校長」のブログ)
ちなみに、エスコフィエの名誉のために、彼の数ある功績のうちの一つを紹介させてください。彼は、健康管理や文化面からの指導も行うことで、調理人の社会的地位を向上させただけではなく、調理を合理化することで、過酷だった料理人の負担を減らす工夫を行いました。
ナポレオンは自分の背の低さを強調しないために、常に馬に乗った状態で自らの肖像画を描かせたといいます。偉大な人物は、こうした人間味あふれる逸話と共に、その名を後世に遺していくのですね。
日本だけ?帽子が長いほどエライ!
日本では見事にこれが踏襲されており、見習い→ベテラン→料理長・シェフの順番に、深くなっています。日本では1927年、帝国ホテルがパリのリッツホテルに留学生を派遣したのがそもそもの始まりでした。一行はリッツの「エスコフィエの帽子の逸話」を日本にも伝えました。これが元となり、現在も日本の洋食界ではこの風習が踏襲されているようです。
帝国ホテル(東京・大阪共に)では当時から現在に至るまで見習18㎝、7年目以降23㎝、料理長以上35㎝と帽子の高さが決まっているそうです。
又、リーガロイヤルホテルでは、管理職は40㎝、それ以外は30㎝ですが、これは客の前に出る時だけで、普段は調理がしやすいように紙製の帽子を被るそうです。出典:「おしえてねドットコム!」(コックさんのかぶっている帽子は高さによってランクがあるの?)
ちなみにフランスでは料理人の帽子を「トック・ブランシェ(Toque Blanche)」とよび、日本のような階級による高さの差はありません。日本でもフランスでも、着用はもちろん義務ではないので被っていない料理人も多いようです。ただ、やはりあの純白に輝く背の高い帽子には、憧れと尊敬を感じます。いつかはトック・ブランシェが被れるシェフになりたい!そう思って修業に励む料理人も多いのではないでしょうか。